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風紋記事

2015/05/13

 小学生の頃、日曜日に家に1人でいると見知らぬおじさんが「すいません」と裏口に顔を出した。「水を一杯下さい」と言う。コップに入れた水道水を差し出すと、ごくごくと飲み干し礼を言って立ち去った。スーツ姿だったから何かのセールスマンだろう。少し驚いたが昭和40年代、そう珍しいことではなかったように思う。だいいち喉がかわいても自動販売機などどこにもないのだから▼今、知らない人の家に行って、同じことをしたら通報されるかもしれない。時代は変わった。プライバシーや個人情報保護の観念が浸透したし、何より社会の共通認識として、知らない人に声をかけるのはいけないことだという考え方が定着している▼昔は国鉄の「急行紋別」に乗れば、知らない人同士が向かい合って座り、世間話をしあっていた。「大人とは、初対面同士で、なぜああも話が尽きないのか」と子ども心に感心して眺めていた。おばさん連中は何かしら食べ物を持ち込んで、回りにおすそ分けしている。夏みかんとか、ゆでトウキビとか。毛ガニを一匹差し出された時は焦った。子どもに毛ガニって…▼10日、市民会館で地域安全絆の集いを取材した。振り込め詐欺など特殊詐欺の被害を防ぐには「地域の絆が大切」という趣旨だ。中高生の吹奏楽の演奏が素晴らしかった。みんなが「個」の鎧をまとっている時代、昔のような絆を復活させることはそう簡単ではない。でも吹奏楽の演奏に合わせ会場の皆が「ふるさと」を歌う姿を見ながら、あの頃の社会に戻るのは無理にしても、時々思い返してみることはできると思った。(桑原)