風紋記事
2年前、テレビ番組「深イイ話」で、山登りの何が楽しいか、深くていい話を求めて番組スタッフが、登山中の人にインタビューする企画があった。中年のおじさんが言う。「お金では買えない景色があるから」。おじさんが去った後スタッフが言う。「プライスレスか。どっかで聞いたことあるなぁ」▼スタジオのタレントらは「おじさんに失礼やろ」と注意はするが、その実、薄ら笑いを浮かべている。別の男性は「地球を歩かせてもらっている」。流行の言葉「生かされている」のパクリだろう。ナレーターは「結局、今日の撮れ高はいまいちでした」と小馬鹿にする。スタジオのタレントらは「こら!」と突っ込むが、観客も爆笑している。ありきたりの言説には、みんなもう飽き飽きしているのだろう▼ニュース番組のコメンテーターは、政治家が汚職すれば「猛省すべきだ」と言い、安価な食品に異物が混入すれば「企業モラルの欠如だ」と糾弾する。誰でも言える、中身のない言説が日本中を覆っている▼もしかしたら、アメリカ国民も似た感覚を持っているのかもしれない。大統領選共和党候補の指名争いにおけるトランプの人気ぶりを見て、そう思った。トランプの言説は極端で過激だが、ありきたりではない。国民はその内容を真剣に支持しているのでは、おそらくない。正義面してあたりさわりのないことを言う偽善的な政治家にうんざりし、偏ってはいても自分の言葉で喋っているトランプ氏を見て、まだましだと思っているのだろう。それだけで大統領になれるとしたら、それも困った話ではあるが。(桑原)