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「滞在3日目に、ようやく流氷に会えました。それもガリンコ号で氷海に入ることが出来、最高に嬉しい」と、横浜から来た主婦が話してくれた。「心臓の手術を受けて間もないのですが、これを機に、流氷の海から勇気をもらいたくて」▼まだ若い彼女は「専業主婦を続けて来まして、今まで旅行などもさせて貰いましたが、そんな環境にドップリつかっていて良いのかどうか、最近考えました。しばらく八百屋さんに勤務して、そのお金で今回流氷を見に来たのです。それを旅行資金に出来る私なんて、まだまだ甘いのでしょうが…、それでも旅行していて満足感はあります」とテレ笑い▼ガリンコ号から見る流氷は、彼女の目に新鮮に映った。オホーツク海の大きな自然の中に誕生し、数ヶ月で消えてゆく白い大陸。その中に佇(たたず)んで、彼女は自分健康のこと、これからの先の意味のある生き方、そのために成すべきことは何か、考えを巡らしたという。恵まれた環境であることを感謝しつつも、命をかけた手術の後、彼女は「時間」をとても意識するようになったと言う▼彼女にとって今回の旅は、ある意味再出発のための旅だったようだ。「どうしても見たい」と思った流氷は、紋別に到着した日は、遠く見えない彼方にあった。祈ったという。流氷に会えるかどうかが、これからの人生のカギを握っているようにも思えたという▼「流氷に囲まれて、深呼吸をして…、その時の私は、身も心も、真っ白でした。こんな瞬間は、今までの人生になかった。紋別に来て本当に良かったと、心の底から思いました。そして、人間は本来、一人なのだとも思いました。白い世界に来て、そう思うと、何かとても新鮮。元気が沸いてきました」。爽やかな笑顔だった。