←前へ ↑一覧へ 次へ→

デスク記事

2009/02/28

 「二度とこのような事が起こらないよう、社員教育を徹底して…」と、何かが起きる度に責任者は述べる。次に出てくる言葉は「間違わないようマニュアルを策定し、徹底させる」である。しかし、ここに落とし穴はないだろうか▼脳低温治療法を開発した、日大総合科学研究科の林成之教授の分析が面白い。「考えることで心が生まれる。失敗したら、本人に原因と解決策を考えさせ、その繰り返しが乗り越える力を育む。失敗しないためのマニュアルを策定しても、部下の心は育たない」と語る▼政治家、企業人、公務員など全ての職種についても、林氏の言葉は当てはまる。ひと言、言葉を発すれば、あるいは失敗を犯せば、マスコミ、評論家、一般の人など、四方八方から攻撃の刃が向けられる。それに備えて、がんじがらめのマニュアルを作る▼しかし文章化されたマニュアルなんて、いくら精緻なものであっても全てに対応することは不可能。マニュアルは一つ一つの点に過ぎない。それを辿(たど)ることは思考をめぐらす行為とは別。心が入らず、点と点との空間にスキが生じる▼人の思考は、瞬時にして広大な空間を埋め、対応する能力を持っている。マニュアルを読めば1時間かかるものを、思考は1秒でクリアー出来る可能性を持つ。林氏の言う「考える」という行為は、脳を活性化させ、前向きな心を育てるキーポイントではないだろうか▼林氏は、北京オリンピックの水泳陣に、自分の弱点を克服する方法として「否定的な気持を抱いたとき勝負に負ける。瞬間に全力をつぎ込む心の訓練をすること」を伝えた。金メダルの北島選手は、それに徹したという。政治家も企業人も、社会の雑音より、自己の信念に徹するべきだ。