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「浮世草子」などで知られる江戸前期の作家・井原西鶴の辞世の句。
「人間五十年の究(きわま)り、それさへ我にはあまりたるに、ましてや浮き世の月見過しにけり末二年」
寿命と言われる五十歳を、さらに2年も越えた。浮き世の様々な出来事を見ている内に…という意味である▼日本人の寿命は、男女平均で82歳を越え、世界最高となっている。西鶴の時代から約三百年を経て、30年も長生きできるようになった。世界を見ると、経済や文化、医療などの環境によって平均寿命に大きな差がある▼ボツワナは35歳前後、ナンビアは約45歳だ。今後は地球環境の後退、食糧、水不足など、人類の生活環境が悪化することが予想され、そうなると近未来的に、地域差はますます広がることになるだろう。人類の寿命は、そろそろ頭打ちになったとの見方も出来る▼群馬県渋川市の静養ホーム「たまゆら」の火災で、10名の犠牲者が出た。生活保護者などが多く、認可施設には入所出来ない人が多かった。このような方を「漂流高齢者」と言うのだそうだ。無認可ながら、これらの施設に頼らなければならないのが日本の現状。たまゆらの高桑理事長が責任を問われているが、入所者は「ここが終の棲家」と感謝している▼国の対高齢者施策も、従来に比べれば厳しいものになってきた。経済環境が悪化する中、各分野で国民の需要に応えることが難しくなる。福祉関連の各種施策にもシワ寄せが来て漂流する″w者の割合は益々多くなってくるだろう▼平均寿命世界一を誇る日本だが、今後は福祉政策の後退等で、生きることの難しい時代に入るだろう。平均寿命の数値は次第に下がり、井原西鶴の句を身近に感じる時代が、やがて来るのだろうか。