デスク記事
「おばあちゃん、楽しかった?」「お母さん、よかったねえ、念願かなって」。3日の旭川市内のホテル。朝食会場で、たまたま隣合った家族から聞こえてきた会話。見ると、おばあちゃんは車いす。会話は続く。「まだ食べられる?」「果物、持って来ようか」「いいえ、もうお腹いっぱい。何も要らないよ」▼まったく普通の会話だが、優しさが伝わる柔らかな会話だ。50歳代の夫婦だろうか、おばあちゃんは妻の母親だということが、会話の内容から分かった。「何が一番おもしろかった?」「そりゃあ、アザラシだよ。前から見たいと思っていたからねえ」▼旭山動物園に行って来たなのだろう。おばあちゃんの嬉しそうな笑顔を見ていると、ついこっちも幸せな気持ちになってくる。そして自然に「どちらからですか?」と聞くと、ご主人が「ハイ、東京からです」と言う。私は内心驚いた。自宅から羽田に行き、飛行機で旭川へ。そして動物園▼きっと車いすを押しながら、動物園を回ったのだろう。そしてまた東京に向かって…。「思い切って、来られたのですねえ」と話しかけると、お二人は「おばあちゃんは旭山動物園のことをテレビで見ましてねえ。それから一度見たい。でもだめかなあ≠ニいつも言っていました。「そのうち私たちの方が、何とか連れて行ってあげたい≠ニいう気持ちになってしまって…」▼「私、車いすですから、ほとんど家の中だけでした。旅行なんか考えたこともなかったけれど、決心しました。でも、来て良かった」と笑顔。2人も同じように笑顔。3人にとって、とりわけおばあちゃんにとっては一大決心の大旅行だっただろう。去ってゆく後ろ姿から私は目が離せなかった。あまりにも美しかったから。