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イチロー選手が9年間、毎年200本以上の安打を放つという、大リーグ新記録を達成した。日本人選手が大リーグの歴史に輝く1ページを刻んだことを喜びたい。イチロー選手は記者会見で「解放された」と、心境を語った。それは、妻弓子さんと共に目指していた、頂点への戦いから解き放たれたことを意味する▼妻弓子さんの姉で、元NHKのアナウンサー・福島敦子さんの講演を聴く機会があった。その時イチロー選手について彼女はこう言っていた。「多くの方がイチローを天才と言いますが、彼は決して天才ではなく、活躍を支えているのは誰にも真似の出来ない、過酷なまでの練習量なのです」と▼過去も、そして今でも、生活の全てが野球に直結すると言う。歩く時も、家でソファーに腰を下ろしている時でさえも、心は常に野球に向き、納得の行くまでバットを振り、バットが血染めになっていることは珍しくないと言う。「彼ほど練習する人に私は今まで会ったことがない」と、彼女は話していた▼しかし、義姉の福島さんがいくら「努力の人」と言っても、私たちは、それでも彼は天才だと考える。イチロー選手は、自分の人生を100パーセント野球ととらえ、そのために全ての時間を一点に集中するという天才なのではないだろうか。もちろん、努力だけでは世界一にはなれない。しかし才能だけでも、トップになり得ない▼本拠地シアトル市街のど真ん中の、高層ビルの最上階から地上まで、巨大なイチロー選手の写真が飾られている。シアトルの誇りであり、アメリカ大リーグの象徴でもある。彼に向けられる視線、喝采を背に、彼は爽やかな表情で「これからは自分と向き合う」と言う。すでに、哲学的な境地に達しているように見える。