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今まで、政治家との会見、会談の中で、中川昭一氏(元財務・金融相)ほど手応えのある人はなかった。人の話を真剣に聞き、熱心にメモをとり、反対に質問もしてきた。多くの人の声を聞き、それを政治に生かそうとする姿勢を、強く感じさせる人だった▼以前、網走で開かれた記者会見で、私はサハリン沖の石油開発について「日本にとって国益なのは分かるが、万が一の油漏れ事故の時は、北海道沿岸の漁業資源等に重大な影響がある。開発は両刃(もろは)の刃。北海道選出の衆議としてどう思うか」と質問した▼中川氏は「ご指摘の通りと思うが、私はサハリン沖開発について多くの知識を持っていない。どうか問題点を教えて欲しい。私もこれから勉強し、北海道沿岸の漁業を守りたい」と言った。私の話を熱心に聞き、メモをとりながら「約束する」と力強く語ってくれた▼正直な人だと思った。政治家に共通する虚勢を張らず、知らないものは知らないと語り、真剣に相手の話に耳を傾ける。中川氏の話口調、態度などから、真摯な政治姿勢が強く伝わってきた。人は、いくら表面を装い、威勢のいいことを言っても、その言葉に深さがあるかどうか分かってしまうものだ。何回かの会合でも、中川氏は真剣に話し合える人だった▼アジア諸国、とりわけ中国に対しても、独立国としての主張を真っ正面から行う数少ない政治家と知られている。中川氏をタカ派≠ニ言う政治評論家は多いが、今の日本は、当たり前の主張をする人をタカ派と呼び、あたり障りのない事を言う人をわきまえた政治家≠ニ言う。誰にも欠点はあり、中川氏はそれで失敗した。しかし政治家としての資質が高いものだった事だけは確かだ。惜しい政治家を失った。