デスク記事
「あかあかと、日はつれなくも、秋の風」
松尾芭蕉の句である。日中の太陽は、まだあかあかと照り続けているのに、風には秋の気配がするという意味。
今年の夏は気温が上がらず、雨続きで、一気に秋に突入した感がある。秋にしては温かい日が続いていたが、このところ、秋は急速に深まってきた▼日曜日の温かい午後、大山山頂公園を散歩した。林道に降りるすぐ下は、毎年カエデの美しい紅葉が見られるが、この日は葉の先端が少し色づいている程度で、紅葉最盛期にはまだ日があった。しかし周囲の木々からは、風に促されるように連続して葉が落ち、足元でカサカサと音を立てていた▼秋の心地よさは、この乾燥感にあるのではないだろうか。澄んだ空気と、植物が一年の営みを終え、その終末を飾るような鮮明な色彩。四季の中で、秋ほど風景がダイナミックに変化をする季節はないように思われる。そして束の間の秋は一気に冬に突入してゆく▼その日、我が家の庭で雪虫を見た。「もうすぐ冬だよ」と告げているようでもある。ユックリと、フワーと空中に浮かぶように飛ぶ雪虫は、越冬する前に交尾し、卵を産み付けるための樹を求めて、必死に飛翔しているのだ▼秋から冬に移行する接点で、自然界は大急ぎで行動している。人間も知らず知らず、何かにせかされているような、そんな焦燥感にかられる時期なのだろうか。「秋は淋しくて」「心が落ち着かない」「寒い冬に向かうから…」など、多くの人はあまり威勢のいい言葉は言わない▼しかし人間もまた自然界で生きるている。一年という周期を、無意識に体内時計で感じているのだろう。「動」の時間もあれば、「静」の時間もある。生きるためのバイオリズムと言えよう。