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デスク記事

2009/11/08

 11月2日発行の「週刊・日経ビジネス」の表紙のデザインは、アメリカドルが墓場の十字架にされていた。そして本号のタイトルは「ドル最終章」である。そのトップ記事は、かつて旧ソビエトの崩壊を予測断言した歴史人口学者・アマニュエル・トッドの「ドルは雲散霧消する」である▼彼は「金融危機が落ち着き、普通の経済活動に戻れば、ドルの下落が始まる。ドルのレートが上がる、下がるの問題ではなく、ドルが消えるということです」とショッキングな考えを述べている▼理由として、米国経済の衰退が限界点を超えると、中東の産油国や中国がドルに見切りをつけること。そして軍事面でも米国は衰退する。アフガニスタン問題は、米国の無力さの象徴をあげている。「主要20カ国は、ドル崩壊後の世界について、真剣に議論すべき」と語っている▼確かに彼が言うように、世界の需要は米国の過剰消費によって支えられ、米国の国債発行による借金を、日本や中国が後押ししてきた。しかし昨年秋からの世界不況を転機に、今後各国の生産拠点は労働コストなどが低い、新興国に移る。賃金は下がり、世界の需要は縮小する▼こんなことを、世界は今まで考えたこともなかった。強いアメリカ、強いドル。世界はアメリカを中心に回っていたと言え、世界各国は有形無形でアメリカの影響を受けてきた。しかし彼は「米国という存在に世界は幻想を抱いてきた」と言う▼世界は今、何か予測不能な事態に突入しようとしているのかも知れない。ドルが雲散霧消することは、世界の経済事情が大きな渦に巻き込まれることを意味する。日経ビジネス副編集長は同誌で「1ドル50円の恐怖。ドル基軸通貨という物語の最終章が始まった」という文章を書いている。