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数人の人に目隠しをして、象を触らせた。鼻を触った人は「この動物はヘビのように細長いもの」と言い、耳を触った人は「ウチワのように幅の広いもの」と言った。目隠しを外すと、みんなはそこに立派な象を見て「ああ、一部分だけでは全体の姿を思い描くことは出来ない」と話した。そんな寓話を聞いたことがある▼過日、札幌で受けた講習でもそうだった。大きな画面にポツンと小さな黒点が描かれ、講師の方が「これは何に見えますか」と出席者に聞いた。「黒点ですよね」「身体に生じたガンかな」「何か。悪い象徴」など様々な言葉が発せられた▼講師はこう言った。「皆様に共通しているのは、黒点以外の広い範囲の白い部分を見ていないことです。何故小さな点だけに意識を集めるのですか。何も書かれていない白い部分こそ、複雑な要素を含んでいるのです」と▼政府の行政刷新会議による事業仕分けが、民主党の支持率を支えている。ムダ、天下り│。次々に廃止、削減など、公開の場で行われていることは、政治の新たな方向を感じさせ、新鮮だ。見えなかった行政の裏を見る思いがして、爽快感もある▼しかし正直に歓迎出来ない何かがある。未来に向けての国家観、世界の中の日本の姿図を示す以前に、これら個々の事業を一刀両断する作業に、面を見ず点を凝視している危険性はないのだろうか。また、裁判で被告をさばくような、仕分け人の言葉使いも疑問だ▼象が象として生きるには、身体のそれぞれの部位に、この大きな生命体を維持するための役目がある。それを前提に、象をさらに元気にするために、どうダイエットすれば良いか、知恵を出し合うのが必要であろう。世界も日本も、今は歴史的な曲がり角にさしかかっているのである。