デスク記事
「失われた7年」という言葉がある。政治の世界ではない。日本がバイオ産業の面で、欧米はもとよりアジア各国からも大きく水を開けられているという意味だ。最大の原因は、組織を作って魂を入れない日本人の怠慢さにある▼2002年、小泉政権の時「バイオテクノロジー戦略大綱」を作成し、2010年に25兆円産業を目指したが、2008年の段階で3兆円と低迷している。これを反省した経済産業省が昨年11月に「バイオ・イノイベーション研究会」を発足させたが、その内容は7年前と変わらず、関係者の間では「日本は周回遅れ」という意識だ▼タイでは、至る所にバイオ燃料用のアブラヤシの森が形成されている。そこで働いている人たちが「ヤシはタイ人の命。経済力のある日本と違って、タイは燃料を外国から輸入できない。バイ燃料の開発は、身を守るための事業」と説明してくれた▼インドネシアでは地下資源が枯渇し始め、日本への液化天然ガスの輸出は激減し始めた。自国消費で手いっぱい│というところだ。そこで3年前に「国家バイオ燃料計画」を策定し、着実に計画を進めている▼インドは人材育成に「バイオパーク」を各所に建設し、マレーシアはサトウキビやアブラヤシでバイオエタノールの生産が活発だ。インドもシンガポールも、国家的プロジェクトでバイオ産業を急進させている▼先発していた日本が、なぜバイオ開発が進んで行かないのか。それはバイオ転換への切迫感がないからではないか。エネルギー資源がゼロに等しい国なのに、現実は輸入で必要量が確保されている。自国で生産しなくても、他から買う慣習が根付いてしまったのだ。それだけ豊かと言えるだろうが、豊かさは時として、崖っぷちにいることすら忘れさせる。