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デスク記事

2010/02/19

 「天つ風、雲の通ひ路吹きとじよ、乙女の姿しばしとどめん」。ご存じの、百人一首のひとつ。カルタが苦手な人でも、この札だけは大丈夫という人気の一首だ。地上と天の間の雲にある、天女が行き来する空間を、風よ、少しの間ふさいでおくれ。美しい姿を、もう少し見ていたいから…。そんな意味の歌である▼この歌にちなめば「北風よ、海の通い路吹き閉じよ。流氷の姿、しばしとどめん」。そんな気持ちになってしまう。ここ数日、紋別沖は流氷の白い世界になっている。団体観光客を乗せたバスがひっきりなしに行き交い、ガリンコ号は臨時便を出して嬉しい悲鳴だ▼飛行機は満席で、市内で食事や買い物を楽しむ人も多い。矢張りこの時期、流氷がなければ紋別の観光は成り立たない。特に東南アジアからの来訪者が多く、雪を見て歓声、ガリンコ号で流氷を体感してまた歓声。「流氷はどうですか?」と質問すると「生まれて初めて見ました。感激、感激。信じられない光景」と、満面に笑みをたたえる▼ガリンコ号乗組員、観光関係者などは「流氷さえあればガリンコ号は連日満席。観光客は大満足してくれます。何とか少しでも長く、流氷が沿岸付近に留まってくれれば」と語り、祈るような表情だ▼しかしその流氷は、今のところ例年より薄く、勢力は決して強くない。少しでも出し風が吹けば、海面はすぐ白い世界から青い世界に変わってゆくだろう。特に今年の流氷には、それが感じられる▼だから北東風に頑張ってもらい、流氷が南西の出し風≠ナ沖合に押されないよう防いで欲しいのだ。私たちにとって、流氷はまさに乙女の姿である。そんなに長くとは言わないので、今しばし、私たちの近くに居て、その美しい姿を見せていて欲しい。