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デスク記事

2010/04/10

 昨年の冬、旭川の旅館の女将(おかみ)が「私、ズワイガニのイメージは汁物のダシ。それだけでは食べたことないわ」と言った。私は「それは情けない。食べやすく、あっさりした味は、多くの人に好まれていますよ。あの高価な山陰の松葉ガニはズワイガニのこと」と言ってその年の5月、ゆでたての3Lのズワイガニを持っていってあげた▼「ごめん、ごめん。ズワイガニって、こんなに大きかったんですか。ダシだと随分小さかったので、それしか知らなかった。本当に、素晴らしいおいしさですね。カニと言えば毛ガニしか頭になかったので、これで考え方を改めます」と、大喜びだった▼釧路の医師に、私の友人がいる。意外なことに、彼もズワイガニなどあまり食べたことがなく、印象に薄いという。「釧路にはズワイガニが揚がらないから、縁遠いカニ。花咲ガニが一番身近な存在」と言う▼私は漠然と、ズワイガニは北海道の人なら誰でも知っている、馴染みのあるカニと思っていたが、そうでもないらしい。彼にも早速送ってやると「本当に美味しく、食べやすくて驚いた」と、決してお世辞でない手紙が届いた。すぐに果物が送られてきたが、それは釧路の香りのするものではない。水産のマチに住む者同士のやり取りは、難しいものだ▼私がそうだからと言って決めつける訳ではないが、紋別で獲れる水産物に慣れっこになっている私たちは、道内の人達も、水産物については同じような意識を持っていると、勘違いしている面もあるのではないだろうか。そんな気がする▼「紋別の人はいいねえ、質の高い魚が手に入って…。同じ物でも、私たちの手元に来る時は鮮度も違うし、あまり口に入らないし」と良く言われる。それが本当のところだろうか。