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デスク記事

2010/07/17

 「あれは(投げ)入れるまでがひとつの作品です」。大リーグ・オールスターの球宴で、ライトライナーの打球を華麗にジャンプして好捕し、走りながら観客席にボールを投げ入れたイチロー選手の言葉だ。野球史に残る名言だろう▼大リーグのオールスターに10年連続して選ばれ、しかもチームを引っ張る1番打者。押しも押されぬ、大リーグの看板選手である。テレビに映し出されるイチロー選手のこのシーンは、作品にふさわしい美しいものだった。流れるような一連の動きは、極≠ノ達した者だけに可能な、美しくも厳しさを感じさせるものだった▼かつて、NHK・福島敦子アナウンサー(イチロー選手の妻・弓子さんの姉)が、講演会でこんなことを言っていた。「イチロー選手を多くの人は天才と言いますが、彼は一日24時間、野球一筋に努力している人です。私は、血に染まった、何本もの彼のバットを見ています。一瞬でも、思考が野球から離れたことはないと思います」と▼イチロー選手は、オールスターには特別の感情を持っているという。気持ちが高ぶり、最高の高揚感を感じるという。それは10年、何の変わりもなく、もし選ばれなかったことを考えて、時には事前に試合のチケットを購入する程の熱の入れようだ▼今回の「作品」発言。ここに彼の野球人としての熟度を感じる。あるいは、守備に就く前から、このようなストーリーを頭の中で描いていたのではないだろうか。打球が飛んできた。この瞬間彼の作品は開始された。球に向かってダッシュ。そのままでは捕球できない高さ。ジャンプして捕球し、勢いでそのまま走り、ボールを観客席に投げ入れる。良くもこんな見事な作品が生まれたものだ。次はどんな作品を見せてくれるのだろう。