デスク記事
庭に置いていた、水やり用のバケツに一匹のハチが入っていた。水に溺れそうになりながら、手足を必死に動かしていた。そのままにしていたら、間もなく命が尽きてしまうだろう。ポケットにあった紙を近づけると、ハチはそれにしがみつき、懸命になって這い上がってきた▼そのハチは、黄色と黒の縞模様のスズメバチ。強い毒バリとパワーを持つ、人間にとっても危険なハチである。しかし、紙の角にしがみついて身体を震わせている目の前のハチは、いかにも弱々しい。濡れた羽は飛ぶ力を失い、身体全体は冷え切っているだろう。身体を小刻みに動かし、手足で顔をぬぐい、身体をさすっている▼しばらく観察していると、やがて少しずつ元気になり、紙の上を緩慢な動作ながらグルグル回り、体力を回復させようとしている。羽を動かすけれど、とても飛べる状態ではない。懸命なハチの姿は、いじらしい程だ▼あそこで紙で救わなければ、ハチは間違いなく命がなかっただろう。その生死の境に私がいたのだと思うと、何とかして元気になって飛んで欲しいと思ってしまう。ハチとの間に、何か共有するものがあるみたいで、ハチに声援を送る▼不思議なものだ。元気なスズメバチなら忌み嫌い、飛んできたら何かで叩き落とそうとする。スズメバチの被害は毎年各地で起こり、紋別市役所でもかなりの回数、駆除に奔走する。刺されたら大変なのだ。しかし、まだ羽に力のないこのハチは、フラフラ頼りない動きを繰り返す▼かなりの時間が経って、ハチはようやく飛んだ。しかし数センチ。そしてさらに1メートル、やがて視界から消えていった。どこへ行くのだろう。仲間の所へ着くことが出来るのだろうか。何かホッとした光景だった。