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デスク記事

2010/08/05

 「弱き者よ、汝の名は女なり」。シェークスピアの戯曲・ハムレットの中の有名な言葉である。ハムレットの母は、夫の死後2ヶ月後にデンマーク王の弟クローディアスと再婚する。それを嘆いてハムレットはそう言った▼高齢者の行方不明者が相次いでいる。「家を出ていった。弟の所で暮らしていると思っていた」「いつかは帰ってくると思っていた」など、家族の人の反応は冷たく感じる。せめて、どこでどうしているか、確かめること位はして欲しい▼「弱き者よ、汝の名は高齢者」とも言えるが、ハムレットの母は再婚という行き場所があった。家を出て、あるいは独居老人で行方不明になっている方達は、行くあてすらないのである。弱い立場に在ると同時に、限りない寂寥感に包まれている▼第一義的には家族間に問題がありそうだ。そして社会組織の中に、あと一歩の努力、心遣いが足りないように思われる。公的機関だけでなく、隣近所、町内会組織など、もっと真の気遣いが必要なのではないか。幼児の虐待、放置事件も重なっている。状況を知りながら何も出来なかった(しなかった)社会の冷たさが心に残る▼何故家を出たのだろう。そして何十年も、どこに行ったのか、どこに居るのかも知られず、知ろうとされず、独り彷徨(さまよ)い、どこかで命を終えるのだろうか。その人は独りつぶやいているかも知れない。「誰も気にしてくれる人もない。そうよなあ、何の役にも立たない、厄介者だから…。でも、つらい毎日だけど、たった一ついいことは、気軽なことだ」と▼それが出来る人はまだいい。中には、考える力もなくなり、何も出来ず、知らないうちに命を落としている人たちだ。消えてしまったまま、記録から抹消されるのか。