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デスク記事

2010/09/12

 老いて、魔法を使うことが出来なくなった悪魔が荒野で一人の少女に出会った。はぐれた母親を探して旅をしている少女。腹をすかしていた悪魔は少女を食べてしまおうと考える。しかし、きれいなひとみを輝かせ悪魔の言葉を信用する少女を見て、悪魔は「この少女はきっと、暮らしやすい土地を求めて旅をしているのだろう。今の俺と同じだ」と思う▼悪魔は悩む。天を仰ぎ「神様、俺はどうしたらいいんだ」と、生まれて初めて神に呼びかけた。しかし欲望には勝てない。少女が死んでしまったら食べても良いだろうと考え「しばらく目をつぶっていて」と言い、自分が毒リンゴに変身する。同じくお腹を空かしている少女はきっと毒リンゴを食べるだろうと思った▼目を開けた少女はリンゴを見て、それを食べようとするが「おじさんが戻るまでとっておこう」と思った。そして空腹のあまり少女は眠ってしまう。翌朝泉の側に、たくさんの実をつけたリンゴの樹があった。そこには、探し求めていた母親が居た。泉は、悪魔が流した涙。悪魔は最後の魔法を使ったのだ▼これは最近読んだ「悪魔のりんご」という絵本の物語。悪魔の心と天使の心は、誰もが持っているもの。この世で競争の原理が強くなればなる程、人は悪魔のささやきに支配される。時には、悪魔になることが成功者≠ニ世間から言われることもある▼しかしそれは単なる表面的な衣(ころも)の部分であり、何かの拍子に真実に出会ったとき、あるいは人間が本能的に求めている純なるものを目前にしたとき、人はきっと取り返しのつかない時間の経過を知るのだろう。それでも、それを感じ取ることの出来る人はまだ幸せ。それさえ気づかず、孤独な衣をまとったままの人こそ、哀れである。