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デスク記事

2010/10/16

 自動車の金型製作企業として日本大手の宮津製作所(群馬県大泉町)の社長T氏は私の友人である。創業当時は自転車の部品製作から始め、現在ではロールスロイスの部品の型を製作するまでに発展した。それが急遽、もうひとつの大手メーカー富士テクニカと事業統合することになった▼企業再生支援機構からの支援を受け、千人以上居る社員は半分を減らすことになった。社長も別の人物に交代した。T氏に会ってきた。「昨年までは順風満帆でした。しかし中国の自動車事情が急伸し、中国、韓国の金具メーカーが台頭してきました。コストの面で太刀打ちできません。当社への発注は激減しています」とのこと▼さらに「日本人技術者が引き抜かれ、今まで信頼される技術が売り物だった当社の存在価値が薄れました。金具製作は次第にアジア各地に散らばって行く傾向にあります。日本の自動車メーカーは12社程度ですが、中国には100社もあるのです。しかも自動車の購入欲は、今後さらに増えるでしょうから」と語る▼T氏は宮津製作所を興し、今まで60年間、努力を積み重ね、世界最高の製品作りを行っている。しかし時代は劇的に変わった。需要ある所に全てはなびく。その勢いの前には、精密な技術を売り物にしてきた同社も独自性を発揮できなくなった。しかしT氏には意地がある▼「長年かけて培った精密な技術は、世界のどの製作所にも真似が出来ない。これを伝えて行く責任が私にはある。社員を半分にしてでも、何とか宮津製作所を維持して行く」と語る。T氏はすでに80歳に達した。しかし社員から篤い信頼を受け、若々しい情熱は何ら変わりがない。最後にT氏は「日本の縮図みたいな会社ですよ」と笑顔を作った。