デスク記事
戦後、食糧も物資も不足していた時代、子供達の遊びはお金のかからないものだった。それでも「正月」という言葉には特別の響きがあり、心が躍った記憶がある。「もういくつ寝ると、お正月。お正月には凧上げて、コマを回して遊びましょ。早く来い来いお正月」という童謡は、子供心を見事に表現している▼男の子は独楽(こま)回し、凧揚げ、女の子は羽子板が盛んだった。独楽にもいろいろ種類があって、その幾種類かを持っていれば、どこへ行っても遊びの仲間に入ることが出来た。世界最古の独楽は紀元前2千年にエジプトで発見され、日本では7世紀の藤原時代のものが出土している。昔の人たちも、身近な遊び道具で楽しんだようだ▼羽子板は中国から伝わったものと言われ、室町時代に、身分の高い人たちの間で、男女の境なく楽しんでいたようだ。羽根突きは魔よけの意味があって、江戸時代には板の片面に、人気の歌舞伎役者や家紋などの美しい絵画がほどこされた。羽子板をプレゼントする風習がやがて庶民にも広がって行った▼その風習も、今ではかなり下火になっているようだ。羽根突きや独楽を回して遊ぶ姿はほとんど見られない。そう言えば、以前はほとんどの車に付けられていたシメ飾りも急激に少なくなっている。日々に追われ、心も身体も疲れ切っているためか、あるいは情緒を求めなくなったのか、「寝正月」「休息の3カ日」などの言葉が交わされる。正月の風情は街角から年々薄れてゆくようだ。