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デスク記事

2011/02/04

流氷科学センターの青田所長は「流氷は、半年で消えてゆく世界最大の白い大陸」と表現している。言い得て妙だ。オホーツク海の北で発生した流氷は、最初は針の先のような小さな結晶。それが隣の結晶と結びつき、次第に大きくなって板状の氷となり、海流と風に乗って北海道沿岸に向け南下して来る▼先日セスナ機で流氷の海を飛んだ。流氷を「面」として俯瞰(ふかん)すると、その様々な形に驚かされる。自然と言う画家が、オホーツク海という広大なキャンバスに、白と青を基調にモザイク模様に描き上げた絵画。そんな表現も当たっているのではないか。果ての見えない巨大な絵画である▼沖から見る紋別のマチは、白い蜃気楼(しんきろう)のようだ。この日の抜けるような青い空と、清涼な大気に包まれて、まるで空間に浮いているように見える。流氷は、押し寄せるのではなく、マチを優しく包んでいるかのようだ▼港から出てくるのはガリンコ号。点のような朱色が、流氷を分けながら沖を目指して進んでくる。機体を近づけ翼を振ると、観光客が手を振って合図してくれた。無言のコミュニケーショだ。この日乗船した観光客は幸運だった。これ程美しい流氷の海に出会うチャンスは、シーズンを通してそんなに多くはない▼大きな面を持つ流氷や小さなものまで、パッチワークのような流氷原。不規則の中の整然を感じさせる。機長に「水平線の彼方まで飛んでゆこうか」と言うと、彼は「燃料が切れても心配ないね。流氷の上に降りて散歩でもしようか。またとない機会だ」と笑顔を向けた。