デスク記事
重い罪を重ねた若い武士が仏道に入り、修行の末、了海という僧となった。自分の罪深い過去の万分の一でも償いたいと思い、人びとを救う旅に出た。豊前の国(大分県)に来た時、断崖絶壁の参道で多くの人が足を滑らし亡くなることを知った▼了海は「この命を捨ててでもこの難所を除こう」と、岩を削り道を通すことを決意した。掘り始めて18年が経ったころ、了海の足は痛み、すでに目は光を失っていた。そして、了海が殺害した主人の息子が、かたき討ちのため了海の前に現れた。了海は静かに「いざ、お討ちなさい」と言う。しかし目の前の半死の老僧は、それでもなお岩を削っている。息子は、自分もそれを手伝い、それから3年後に洞窟が貫通した。2人は手を取り合って涙にむせんだ。菊池寛の「恩讐の彼方に」である▼公金横領で起訴された市教委の元係長が懲役2年、執行猶予5年の判決を受けた。今後彼はホットランド等に与えた被害と高額な返済金を、時間をかけて返し続け、さらに、市民に対して行った背信行為を、生涯かけて償うことになる。心を入れ換え、懸命になって奉仕活動に専念せよ。人の数倍の試練に耐えれば、やがて隔てなき市民になれるだろう。その彼方に、他からの微笑みが待っているかもしれない▼この事件をめぐって、市議会に百条委員会が置かれた。その目的は、事件がなぜ起きたか明確にし、今後の透明な市役所行政を行うためだ。証人喚問はそのためであり、誰かの失敗をあばくものでもない。証人は、市職員の品格にかけて、正直に全てを話すべき。そしてこの問題に早く決着をつけたい。