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ある王様が釈迦を招いて説法を聞く時、多くの灯ろうを用意してもてなした。それを見た一人の老婆が「私はこれしか出来ないけれど」と、一本の灯ろうに灯りをともした。その灯りは、王の灯りが全て消え去ったあとも、明るく輝き続けた。小学生の頃教わった「長者の万灯より貧者の一灯」である▼父親が早くに亡くなり、母子家庭に育った青年が、中学、高校を通じて奨学金を受け、大卒後努力して政治家になった。爽やかな明るさと、誰とも分け隔てなく付き合う人柄が好かれ、彼には応援者が増え続けた。近所のあばさんも声援を送った。政治家・前原誠司氏の素顔は、清廉潔白な、有能で正義感の強い人だ▼知り合いの、韓国人の焼き肉屋の女主人は、前原氏の中学生時代からの顔なじみ。心ばかりの政治献金を行った。それは、身近な政治家への貧者の一灯と言えよう。政治献金規制法など難しいこととは縁のない、一庶民の声援としての一灯だった▼それが、尊敬し、声援をおくる前原氏を失脚させる原因になろうとは、夢にも思わなかった。「私のしたことが…悲しいよ」と下を向く女主人の姿が哀れである。何故、前原氏の秘書や事務所の人が個人献金の内容を精査していなかったのか。また、外務大臣という、一国の命運を担っている前原氏が、その責任として先ず成すべきことは、身辺の精査だったはずだ▼以前から問題視され、多くの政治家がこの問題で失脚してきた経緯があるのに、まだそれを繰り返している。政治家とは、何と脇が甘い集団なのか。暗澹(あんたん)たる気持ちになる。