デスク記事
13世紀初頭の作家・鴨長明は、晩年、およそ四畳半の庵(いおり)に住み、閑静な草庵生活の快適さを楽しんだ。日常生活に最小限必要なものを身の周辺に置き、便利さを満喫し、それを「方丈記」に記した。しかし、その快適さも長くは続かなかった。最終章ではその生活に疑問を感じ、矛盾を自問自答しながら、沈黙してしまう▼個人一人の生活なら、当分は方丈の生活も快適だろう。誰にも邪魔されず、誰に気兼ねすることもなく日々を過ごすことが出来る。その彼でさえ、社会性のない毎日に疑問を感じ、または人恋しくなっていった▼東北関東大震災で、日本全体が哀しみの底にある。復興するには今後どれだけの年月がかかるか分からない。亡くなった方、行方不明になっている方の悲運、残された方の悲しみは察するにあまりある。しかし次に行わなければならないのは、一歩ずつ前に進むことである▼日本は復興しなければならない。「がんばろう日本」の標語のもと、国民が連帯意識をもって、必死になって明日に向かうのだ。「自粛」が叫ばれている。今の状況で、それは日本人の心の優しさである。しかし一定の時間を経た後、悲しみを心に置きながら、社会の営みを元に戻す必要がある▼これからの日本は、生きている国民も途端(とたん)の苦しみを背負う。それでも懸命になって、強い心で経済活動を続け、国を再構築するのだ。企業は全てが関連している。社会が動かなければ経済は行き詰まる。そうなれば、明日の日本に希望はない。「自粛」から、礼儀ある「離別」が今必要だ。