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福島第一原子力発電所の、廃墟に似た姿。それは広島の原爆ドームを連想させる。昭和20年8月6日、原子爆弾が広島市に投下された。通称原爆ドーム≠ヘ当時の広島産業奨励館で、この建物から約150メートル離れた、上空580メートルで爆発した▼建物は爆風と熱戦を浴び、大破した天井から火を噴き、全焼した。ユネスコの世界遺産(文化遺産)として登録されている負の遺産≠フ象徴である。核の恐ろしさを人類に伝え、2度とこのような事のないよう、戒(いまし)めとなっている▼福島第一原発の、破壊された至近距離からの映像がテレビで映された。地上の瓦礫の山、抜けた天井、鉄骨がむき出しになった姿は、まさに原爆ドームの姿そのものだ。廃墟と化したその建物の中で、今何が起きているのか。鉄壁と言われる圧力容器が破損し、水が漏れた可能性が指摘されている。高濃度の汚染水が海に流出するなど、総体的な事態の沈静化はかなり先のようだ▼24年前に事故が起き、コンクリートで固められたチェルノブイリ原発は「石の棺」と言われている。老朽化が激しく、このままでは再び危険な状況になると憂慮されている。またポーランドのアウシュビッツ、広島の原爆ドームと共に、世界の3大負の遺産にしようという動きもあるという▼そんな悠長なことを言っている場合ではない。福島原発は、安全神話がもろくも崩壊した象徴になるだろう。廃炉にするには約20年という予測もある。しかし、遠くのことより、現在の沈静化を切望したい。日本の原発への依存は、現段階で完全に敗北したのだ。