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デスク記事

2011/07/21

 サロマ湖に続く国道を、真っ黒に日焼けした若者が歩いていた。「この震災で職を失いました。これを機会にこれからの人生を考えてみたい。多くのものを一瞬に失ったからこそ、反対に先を急がず、自然豊かな北海道で再スタートしようと思いました」と。「サロマ湖まで送りましょうか」と言うと「急ぎませんし、今の私には徒歩が似合います。それに、歩いていると、こんなに清々(すがすが)しい風を感じられますから」と言った▼今の日本は、都会では幼稚園の入園試験から始まり、それからも大急ぎの日々が待っている。企業に入っても、旅行はおろか自分の時間も持てず、人間関係、仕事に追われ、気がついてみると定年が目の前│という方が多い。それでも、それが出来る人は世間的には成功者≠ニ言われる▼経営コンサルタントで経済評論家の大前研一氏は、米国の経営コンサルタント「マッキンゼー日本支社長」を務めるなど日本を代表する人物だ。彼は旅行が好きで、学生時代は行き当たりばったりの全国旅行をした。北海道は徒歩が主で、上川から層雲峡まで歩いた。1週間、何も食べず歩き、空腹で倒れそうになった時もあった。それでも旅の充実感があり、歩きながらこれからの人生を考えたという▼サロマ湖を悠然と歩く青年。失ったものは大きいだろうが、彼の背中には揺らぎない自信があった。汗を風で冷やし、上空の雲を眺め、靴の底から伝わってくる大地を感じながら、彼は新たな一歩を踏み出した。急がず、だからこそ確実に、そして納得出来る人生を手にするだろう。