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デスク記事

2011/08/21

 氷紋の駅で、購入した品物を手押し車に入れ、ゆっくり歩いているご婦人が居た。「これ、便利ですねえ」と声をかけると「私、これがないと動けないの。いつも側に居てくれる大切なお友達よ」と笑顔で答えてくれた。手押し車の取っ手をしっかり握っていた。自宅は遠いのだろうか、道路の横断は大丈夫なのだろうか、そんなことを考え、後姿を見送った▼乳母車や、何かを改良して使いやすくした車つきの手押し車を、結構目にする。オープンしたてのラベンダー畑では、花の香りを楽しみながら舗装された道を歩いている。きっと自分なりのレジャーを満喫しているのだろう。歩道を歩いている時は、何かの用事で、目的地まで頑張っているのだろうか。坂道では、時々立ち止まり額(ひたい)の汗を拭いて、またゆっくり歩き出す▼「私の大切な友達」と言ったご婦人のように、足腰が弱くなった人にとって、手押し車は決して裏切らない、最高の友達なのだろう。どれもが、とてもきれいに手入れされている。きっと感謝の心を込めて我がパートナー≠大切にしているのだろう。いつも側に寄り添って、ご主人様の日々の生活を助けている手押し車との関係が、表れている▼その横を、速度を上げ、ホコリを捲き上げながら通り過ぎて行く車。ご婦人が歩道を渡っている時、左・右折して来た車がご婦人のすぐ近くまで寄り、イライラしながら渡るのを待っている。情けない光景だ。「貴方が数秒で走れるところを、人生の先輩の方が長い時間をかけて辿(たど)り着くんですよ」。