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デスク記事

2011/09/30

 若いとき、源氏物語の「須磨の秋」の最初の文章が、あまりにも美しく、いつの間にか暗記していたことがあった。今でもその文章が映像として浮かんでくる。文字、言葉の力は時を越えて生き抜き、人々の心に伝わってゆくことを感じる▼日本の古典文学の最高峰とされ、人間と自然を「もののあわれ」の中で調和させ、日本はもとより世界中の読者から絶賛されている。しかし当時はそれ程評価されなかったという。滋賀県の石山寺で公開された、その原本を拝見した。その筆跡に、紫式部の心の軌跡が記されているようだった▼石山寺には「源氏の間」という部屋があって、作品の構想はここで練られたと言われる。原本は、流れるような筆跡も多かったけれど、時には弱々しく、震えるような筆跡さえもあった。作者の心情がそこにあふれ出ていて、原本が伝える、もう一つの物語を見る思いだった▼時を経て、野田佳彦総理が誕生した。総理としての所信表明、予算委員会などで発せられる言葉、表現に対し「具体性がない」「リーダーとしての力強さがない」など言われているが、反面多くの人が誠実さ、総理としての魂が込められていると感じているのではないだろうか▼まだ発足したばかりの野田体制。じっくり見ようではないか。派手ではないが、ひとつひとつ積み上げてゆく誠実さは感じられる。それは野田総理の個性である。彼の言動が、戦後最大の危機を迎えている日本に対して真実だったかどうか、それは時間を経た後でなければ分からない。野田氏の言動が、真に日本復興の原動力になった│となることを期待したい。