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デスク記事

2011/10/22

 「光を求めない花はない、揺らぎながら上へ上へのびあがる花の根元で小石は億年の思い出を秘めうたたねをしているそのかたわらを旅する者が流星のようにとおりすぎる」
 埼玉県在住の詩人・青木景子さんの「そのかたわらの旅」という詩である▼我が家の庭の薔薇(ばら)は、この時期になると蕾(つぼみ)は開花しする前に朽ち果て、または勢いのない弱弱しい花を咲かせている。その中で一本だけ、見事な深紅色を、誇らしげに大きく開花させている薔薇がある。春から夏にかけ、一度も開花しなかったのに▼その薔薇は、太陽の光が届かない、庭木の枝葉に囲まれた場所にある。今まで、何とか光を浴びようと、頭上の枝葉の上に行くために背だけを懸命に伸ばしてきた。木の葉が落ち、光が頭上に注がれるようになり、薔薇の蕾は急にふくらみ始め、ついに大きな花を咲かせることが出来た▼ためていたエネルギーを放出し、その時が来た喜びを一気に表現したような、そんな見事な花が空間に浮き出ていた。花は僅か一つ。多くの栄養を背を伸ばすために使い、最後の開花のために大切にしてきた、たったひとつの蕾だ▼他の、開花出来ない薔薇の花を室内に持って来ると、暖かさですぐに蕾をふくらませ、開花させ、とても良い香りを提供してくれる。この地の自然が、植物にはいかに厳しいか知らされる。庭の木も花も草も、そして虫たちも、やがて雪の下に埋もれて行く。やがて来る光の季節に向け、全てが旅する者≠ネのだ。