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文豪・森鴎外は焼き芋が大好物だったという。勤務先でも、時々事務員に焼き芋を買いに走らせた。作品を書くときは片手に焼き芋、片手にペンというスタイルの時も多かったという。好きだったこともあるけれど、一挙に2つの動作が出来る便利さもあったからと言われている▼21日の夜、旭川の有名な飲食街3・6通りを歩いていると、通りの角で焼き芋を売っている初老の女性が居た。ピーピーと独特の音が響き、香ばしい香りがあたりに立ちこめていた。以前は3・6街には多くの焼き芋屋さんがあった。しかし年々その数が減ってきていた▼昨年までは、確か3軒の焼き芋屋さんがあった。聞くと「私だけになってしまいました」と言う。一人は亡くなり、もう一人は体調が悪く、出ていないと言う。「あまり売れないですよ。でも、私はこの仕事が好きなんです。体が続く限りやっていたい」と話してくれた▼「負けとくよ」と、千円で大きな、ホッカホカの焼き芋が3本。この日の旭川はとりわけ寒く「寒いですねえ」が挨拶の言葉になっていた。焼き芋が体を温めてくれて、そのおいしそうな匂いと共に、心まで温かくなるようだった。その時ふっと森鴎外は、自分で焼き芋を買った事があるのだろうか≠ニ思った。焼き芋は、買う時こそ楽しいのである▼振り返ると、身体を縮じこませ、寒さに耐えながら客を待つ姿があった。地面を小刻みに踏み、ネオンを背に、白い息が光る。3・6街名物「焼き芋の屋台」も、遂に最後の一人となってしまった。いつまでも続けて欲しいと思った。