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デスク記事

2011/12/29

 「クリスマスのイルミネーションを見ただけで、ただ悲しくなる」。津波の被災者が書いた詩である。なぜ悲しくなるのか。「クリスマスが近くなると、南相馬市で毎年、イルミネーションを競い合うイベントがあった。原発事故さえなければ、今年も行ったんだろうな…」▼「春には富岡町の夜の森公園、美しい桜並木は大切なことを思い出させてくれた。秋には浪江町の高瀬川渓谷。紅葉と川の色がとてもきれいだった。毎年、予定を立てなくても行くことが決まっていた。行けなくなって初めて気付く…翌年も、何十年先もずっと行きたいと願っていたことに…」▼そして最後にこう結んでいる。「いつものことであっても、小さなことであっても、それは未来への希望。当たり前の日常生活にこそ、未来への希望が溢れている。それは、とても幸せなことなんだ」と。もし時間が戻り、日常が戻ってきたら何と幸せなことか。被災者の切ない願いである▼私たちは、ともすれば現在の中に在る幸せに気づかず、より特別なものを求める。希望は遠くを見つめること≠ニ漠然と思い、希望を現在≠ノ結びつけることは少ないのではないだろうか。しかしこの被災者の詩は、人の思いと時間の積み重ねが込められている「今」にこそ、全ての出発点があることを教えてくれる▼悲劇的な平成23年は過ぎてゆく。しかし、それも消し去ることの出来ない私たちの遺産。その上に次の希望を築いて行かなければならない。そのためにも「今ある幸せ」を心に抱き、新しい平成24年に向かって歩んで行きたい。