デスク記事
数十年前までの歳の暮れは、日々どこかの家で、餅(もち)つきが行われていた。中には忙しさに追われる企業でも、社員がネジリハチマキで威勢よく餅つきをしていた。今ではそんな光景は殆んどお目にかかれない。20日過ぎになると、商店街に臨時の「歳の市」=としのいち=が軒を連ね、色とりどりのしめ飾りが並んだ。それが、いつの間にか市街地から消え去っている▼クリスマス前後では、飲食店街は人通りが多く、あちこちで仮装して忘年会を楽しむ光景も散見された。クリスマス頃から大みそかにかけての華やいだ雰囲気が、そのまま歳を越し、正月へとつながっていった▼「暮れらしくない」「正月気分が感じられない」。そんな会話が多く聞かれる。「時代の推移」と言えばそれまでだが、一抹の寂しさを覚えるのも事実。特に忙しさに追われ、神経をすり減らす今の時代、年の変わり目の時期に、非日常性の空気感があっても良いのではないだろうか▼俳人・芭蕉の句にも、自分の故郷では鏡餅を牛に背負わせて、妻の実家に運ぶ風習があったことを詠(よ)んだ句がある。鏡餅は日本文化における縁起物である。餅は食の象徴。その上に乗せるミカンは「ダイダイ」とも言い、代々つながる子孫繁栄を意味する▼新年の仕事始めで出勤すると、私のデスクに鏡餅が飾ってあった。新しい年が始まった実感が湧いてくる。今年は初日の出もきれいに見ることが出来た。新雪も美しく、2012年は平穏で、静かに明けた。暮れや新年に、過去の華やかさはないが、正月の香りは日本人の文化であることを実感した。