デスク記事
「私の親父(おやじ)です。親子でやってます」と、笑顔で寿司を握る若い板前さん。横で、店主の父親が、そんな息子を微笑みながら、頼もしそうに見ていた。24日夜、稚内の寿司店でのこと▼店主が言う。「自分の代で終わりかと思ったけれど、息子が店を継ぐ≠ニ言ってくれたんです。エエ嬉しいですよ」と、少し下を向き、笑顔を隠す。息子さんは父親より話好きのようで、特に日本酒について詳しく「利酒師」の資格証を店に掲げていた▼この店に一緒に入った私の友人は日本酒の知識が豊富で、若い板前さんと酒論議に花を咲かせていた。「十四代(山形の銘酒)でも、瓶の色で種類が変わる。艶消しの黒い瓶が最高級で…」と、話は尽きない。そんな会話を、店主は静かな笑顔を浮かべながら、聞いていた▼親子が並んで調理をし客に対応する光景は、客に安心感を与える。代が続くということは、そのマチの今後の発展にもつながる。個々の店が未来に向かって道をつけ、その集大成がマチの勢いになっていく。親子の明るい仕事ぶりを見ていて稚内は大丈夫だ≠ネどと思ってしまう。短絡的かもしれないが、そんな感覚になったのも事実▼社会はリレーでもある。バトンを引き継ぎながら、あるいは引き継ぐ人を探しながら、次のステップに向かう。そのステップが踏めない時は、その部分の時間は止まるのだ。個々が次へ向かうためには、マチ全体が環境を整えなくてはならない。そして、その環境を整える重要な役割は、個々のバトンにかかっている。ホロ酔いの記憶に、あの親子の姿が鮮明に残った。