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学名を「ニッポニア・ニッポン」という。日本の鳥≠ニして世界に知られている「トキ」は、既に国内の野生種は絶滅したとされている。その後中国から輸入し、放鳥を続けてきたが、ついに待望のヒナが誕生した。他のつがいの巣からも、ヒナ誕生が期待できるという明るいニュースが全国を飛び交っている▼放鳥した佐渡の「トキ」が、3月上旬10組ほど巣作りをしているのが発見された。関係者は「今はときの恋の季節。ヒナの誕生を」と期待に胸をふくらませた。15年ほど前から始まった放鳥。今まで繰り返し行われたが、「ひと目見よう」と訪れる観光客のため、あるいは他の鳥獣に襲われたりで、失敗続きだった▼生態がほとんど解明されていないために、手探り状態で管理、放鳥が続けられた。関係者は「放鳥による『トキ』の増殖は、今入り口に立ったばかり。これからさらに試練が続く」と緊張している▼「トキ」にしてみれば、生物の本能として種(しゅ)≠フ保全に向けて、放鳥後恋≠して懸命に生きてきただろう。しかし、それを妨げる様々な要因が重なり、子孫を残すことが出来なかった▼シェイクスピアはいう「恋ってのは、それはもう、ため息と涙で出来たものですよ」。もちろん人間を対象にした名言だが、これは「トキ」にも当てはまる。今まで放鳥され、命を失った「トキ」たち、そして夢が砕け散った関係者たち。失敗の度ため息をつき、涙を流したことだろう。それを越えての今回のヒナの誕生。願わくば、出来るだけ自然界の静かな環境で育って欲しい。