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デスク記事

2012/05/04

 若いとき、作家・小田実の「何でも見てやろう」を愛読した。帰国用のチケットと200ドルを手に、世界一周の旅に出た。1ドルの安ホテルを泊まり歩き、現地で知り合った人と豊かな心の交流をした。彼にとっては、危険さえも貴重な経験だった▼計算なき旅。出たとこ勝負の圧倒的なエネルギー、あふれる好奇心が、世界一周を可能にさせた。今のように情報がすぐ手に入る時代ではないが、彼は「事前の情報は要らない。新鮮な体験こそ真実」と、目を輝かせて地球を回った▼そんな時代の若者は、学生運動、安保闘争に青春を投じた。善し悪しは別として、社会の疑問に対して真っ直ぐに目を向け、命さえかけた。その強大なエネルギーは、今日の日本の繁栄を築いた礎(いしずえ)とも言えるだろう▼平成生まれの今の若い人について、日経が「平成世代の特徴」をこう分析する。「金儲けより社会貢献」「安全志向」「価値観の合う仲間としか交流しない」「あきらめやすい」などである▼小・中・高・大学生時代、平成時代は全てが激変の時。湾岸戦争、イラク戦争を始め、戦争を感覚的に実感し、現在はさらに核戦争さえ懸念される。国家の未来を政治に委(ゆだ)ねることが出来ず、バブル崩壊後、リーマンショックなど経済破綻の連鎖、そして大震災▼今の若者に夢がないのではない。夢を持てないのだ。冒険せず、自己保身に走るのは自然と言えよう。しかし大震災で「絆」の大切さも知った。平成生まれの若者は、どの世代より、実に多くの経験を経たのだ。それは貴重な体験だと言える。さあ、瞳を輝かせ遠くを見ようではないか。