←前へ ↑一覧へ 次へ→

デスク記事

2012/07/18

 我が家の近くに大きな、堂々としたネコが飼われている。「立派なネコだねえ」と、一目見た人は、そう飼い主に声をかける。ところが、このネコは毛並みがフサフサしているだけで、本当はそんなに大きくはないらしい。飼い主は「毛が長い何かの品種だと思います」と言う▼しかしこのネコ。実は最初から飼われていた訳ではない。野良ネコだったのだ。しかも生まれてすぐ、悲しいことに母親に見捨てられた、みなしごなのだ。兄弟は5匹。古ぼけた物置近くで生まれたが、カラスに狙われ、危険を感じた母ネコが1匹ずつ口にくわえて引っ越した▼最後に残されたこの哀れな子猫を、母ネコは遂に迎えに来なかった。目がまだ開かないのに、カラスの猛攻が始まった。穴から出られず、腹をすかして泣いていた。そのうち顔に出来ものが出来、泣き声も小さくなり命の危険が迫った▼それに気づいたのが今の飼い主。「そんな哀れな姿を見てしまったの。そう、見てしまったんです」と苦笑するおばさん=B動物好きで、可哀そうな子猫を見て、そのままにしておけなかった。抱きあげて家で飼うことになった▼その見事な毛並みを自慢するように、颯爽(さっそう)と歩く姿には、あの風前の灯のような命だった哀れな子ネコの面影は残っていない。「きれいなネコ」「まるでファッションショーみたい」「自分を自慢しているみたい」と、近所の話題になっている。しかし、実際は母に見捨てられ、兄弟とも別れ別れになった過去を持つ。幸運にも親切なおばさんに拾われたのが、その不幸を消し去った。良かったねえ。