デスク記事
以前、奇岩が連なる水墨画の世界・中国の桂林に行ったとき、漓江(りこう)下りの時間待ちで、不思議な老人に手招きされた。古い小さな、手作り煉瓦(れんが)の家に彼は住んでいた。「一人の貧乏暮らしさ。でも、君が来てくれて嬉しい。ホレ、これをお土産にあげよう」と、手作りの木製タバコ入れを手渡してくれた▼刻まれた文字の意味は「我が家に来た客には、親身のもてなしをすべし」だった。今でもそのタバコ入れを大切に持っている。家畜のアヒルを追い、少しばかりの野菜を育て自給自足の生活をしていた。あれから随分たった。しかし、あの人懐っこい笑顔が最近妙に思い出される▼暴徒と化し、日本企業を襲い、製品を奪い店舗に火を放ち、車を破壊する。それらの行為を「愛国」の言葉で正当化し、日本の国旗を燃やす。中国国内で、それらの反日行動が広がり、静穏化は見えない▼尖閣諸島をめぐる日・中の衝突は、万が一の最悪の事態をもはらんで、当分は危険な状況が続くだろう。肝心なのは、万が一の軍事衝突は、双方にとって何のメリットもないと言うこと。両国は、何らかの方法で尖閣周辺の平穏を取り戻さなければならない▼領土紛争は、危険な要素を持つ。だから日本は、中国の上を行く冷静さと知恵を持つべきだ。正面衝突は愚の骨頂。中国にも、本来の冷静な知恵があると信じたい。暴徒の姿を見て、それを中国人の全体と思うのは早計だろう。桂林で出会ったあの老人のような、笑顔が素敵な、平和を求める人は多いのだ。果たして、日本のリーダーは、この国難を乗り越える知恵を持っているのか。