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デスク記事

2012/10/24

 9月から10月にかけて例年より気温の高い日が続き、冬と夏の寒暖差で、旭川が世界一になったという。その差77度。ロシア・サハ州の人口800人のオイミャコンを抜いた。オホーツク地域もつい先日まで「温かいですねえ。異常気象でしょうか」という会話が聞かれた。しかし急転直下「寒くなりましたね。今までがウソみたい」の会話が聞かれる▼暑さに対して異常∞異常≠ニいう言葉が、聞き飽きるほど使われたが、やはり季節は正直。最近の寒さは身に沁みる。高所での雪を見るにつけ、キッパリとやってきた冬を、今年は特に歓迎したい気持ちになる。異常でない冬の訪れ、四季の正常なサイクルこそ望ましい▼この時期になると、井上靖の小説「しろばんば」が思い出される。伊豆の田舎の小学校に転校した少年が、村を出るまでの出来事を描いている。「しろばんば」とは、この地方で雪虫のこと。よく遊びに行った女学生が、結核にかかって死んでいった場面が印象に残る▼障子をあけようとすると、女学生から「来ちゃダメ」と言われ、それでも会いに行く少年の淡い気持ち。やがて死を迎える女学生。何も出来ないまま去って行った人│。やがて少年が村を去る日、駅で村を振り返る。少年は生まれて初めて侘しさ≠感じる。遊んだ友達たちと、お別れに共同浴場に行き、夢を語り合ったことなど、思い出は「しろばんば」のように、ユラユラ揺れながら少年の心を行き交う誰。にも、少年、少女の頃の思い出は、心の原風景として残っているのではないか。