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デスク記事

2012/11/09

 マダガスカル島に生息するコガネグモ百万匹から、4年かけてクモの糸を取り出し、それで布を作ったという。ニューヨークの博物館に展示されているが、美しい金色をしており、それがクモの糸から出来たものとは、誰も信じられないという。さらに驚くべきことは、そのクモの糸はとても丈夫で、強度は同じ太さの鋼鉄の5倍だという▼私の車庫の入口にクモの巣がかかっている。扉を開けるとすぐ目の前にあって、時々顔にからみつく。とても強い、弾力のある糸だ。巣を払っているうちに、クモも考えたらしく入口の壁に添って巣を作った。もう顔にかかることはない。クモの生きる権利を尊重して、巣をそのままにしておいた▼5日、巣の真ん中に、その住人であるクモが姿を現していた。いつもなら隠れているのに、この日は堂々と、足を踏ん張って巣の中央にいる。しかし様子が変だ。良く見ると動いていない。棒の先で触っても、ビクともしない。すでに死んでいたのだ▼普段は姿を隠し、獲物がかかった途端スルスルと近づき、丸めてエサにする。それを見て憎らしいと思っていた。しかし目の前の動かないクモを見ると、どこか哀れだ。何回巣を作っても人間に払われてしまうので、仕方なく壁に添って巣を作った結果、昆虫がかからなくなった▼クモは何を思っていただろう。急に機能を失った巣で、懸命になって獲物を待ち構えていたのだろうか。クモを憎らしいと思うのは、その姿形、エサの獲り方のせい。しかしクモに罪はない。生きるための営みなのだ。干からびた姿が風に揺れていた。