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フワフワと、風にまかせて飛翔している「雪虫」。かなり前から姿を現して居り、雪のシーズンが間近であることを知らせている。この小さな虫は、正しい名前を「トドノネオオワタムシ」と言い、のどかな舞いとは裏腹に、もうすぐその生命が終える、最後の飛翔でもある▼この時期、それまで松の樹などに寄生していたものを、2次寄生のため次の木を求めて移動するのである。私達が見ている雪虫は、実は次に寄生する樹を求めて、いつたどり着くか分からない旅を続けている姿である▼幸い、次の樹にたどり着く事が出来れば、すぐ産卵をして、その一生を終える。まさに雪のように、はかなく消え去ってゆく命なのである。その雪虫も、環境変化により数が極端に少なくなっているという。そう言われれば、以前など雪虫が群れを成して、あたりの風景が白く感じたこともあった▼小学校の帰り道、友達と雪虫を手にとり、綿毛のように見える白いものの正体を突きとめようとした。しかし、その綿毛はすぐに手のひらで溶けてしまって、当時の私達は「本当に雪なのでは?」と思ってしまった。それが雪虫の分泌物であることを後で知ったが、それでも「雪の季節を知らせる使者」と、多くの人は勝手に信じている▼作家・井上靖の自伝小説に「しろばんば」がある。しろばんば≠ニは雪虫のことで、井上靖が小学生活を過ごした伊豆湯河原でのことを、叙情豊かに表現している。それを記念して、ここに「しろばんばの碑」が建てられ、観光名所にもなっている▼「雪」という天からの自然現象に、人は純なものを感じ、文学の題材にもしてきた。やがて消える命なのに、次の樹を求めて懸命に飛翔する雪虫の姿に、人はどこかに自己を見出すのだろうか。