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デスク記事

2012/12/28

 「笑う門には福きたる」という故事は、狂言「筑紫のおく」に出てくる。年貢を納めに行く2人のお百姓が道中道連れになり、1人は唐物(中国からの渡来品)を、1人は果物類を差し出す。その際自分の耕地面積に合わせて笑うことを求められ、それぞれ作り笑いをした。そのお蔭で租税の免除を受けるというめでたい話▼イタリアのレオナルド・ダビンチの傑作「モナ・リザ」が世界的に有名なのは、その謎めいた微笑みのためである。2人のお百姓は笑ったお蔭で税を免除され、モナ・リザの微笑みは世界中の人の心を惹きつける。多くの場合、笑いは楽しい時、喜びの時に自然に出てくるもので、世の中を明るくする▼しかし人間の営みは、笑うことより厳しい表情、憂いを含む沈んだ表情になることが多い。特に今日のように、生きる事に息苦しさを感じたり、心配の種が消えない日々の生活の中では、笑いは影をひそめてしまいそうだ▼狂言に出てくる2人のお百姓の笑いは、本当におかしくて笑ったものではなく、領主から強要されたもの。仕方なく笑っているうちに本当に笑っている自分に気が付く。その結果、思いもかけなかった税の免除を受けた。それこそ心から笑える喜びだった▼「笑う門には福きたる」という故事は、悲しい時、無理にでも笑顔を絶やさず、にこやかにふるまえば悲しさは薄らいでいく。悲しくなくても、悲しい表情をすれば本当に悲しくなり涙が出てくる│と示しているようだ。もうすぐ新しい年が始まる。少しでもいいから、今年より笑顔の多い年でありますように。