デスク記事
雪が激しく降った夜、身体をかがめ、足元を見ながら家路を急いでいた。狭い視界の前方に、1匹のネコがユックリと、しかし全身雪まみれで歩いていた。寒いのだろう、時々足をブルッと震わせながら辺りを見ながら、また歩き始める▼何年か前、我が家の庭の暗渠の中に、縞模様のネコが住み着き、やがて子を産んだ。いわゆる野良猫。子猫に食べ物を与えるため、エサ探しに随分苦労をし、それでも暗渠の中からは細い子猫の声が聞こえていた。随分用心をしていたハズなのに、ある日カラスに狙われて、子猫が姿を消した。悲しげな鳴き声を発して、親猫はいつまでも我が子を探し求めていた▼ある激しく雪が降った夜、あの精悍で、鋭い目をした母猫が、疲れたのか足取りも重く雪の中を歩いていた。いつもなら、子猫に与えるエサを求めて鋭い目をして、そこらを飛び回っていたのに、その日の母猫はションボリと、力弱く雪に打たれていた▼あの日の光景が、そこにあった。トボトボと歩くネコの姿。もしかしたら母ネコで、近くの物置小屋かどこかに子ネコが待っているのかも知れない。遠い日に見た、子ネコを失った母ネコの姿にそっくりだった▼あの時、家に急いで帰って食べ物を持って、すぐ母ネコの居た所に戻ったけれど、そこには姿はなかった。食べ物を与える事が出来なかった事が気になって、どこか宿題が残ったような気になった。今度も、家に行って食べ物を持って来るうちに、このネコは姿を消してしまうだろう。雪の中を遠ざかってゆくネコは、冷たいためか、また前足をブルッと震わせた。