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西欧の故事に「ダモクレスの剣」というのがある。危険の上に保たれている安定≠ニいう意味。シシリー島の都市国家の王・ディオニシウスは貧しい環境から身を興し、王位まで上り詰めた。しかしいつ刺客に襲われ、地位を奪われるか分からない▼側に仕える家来のダモクレスはいつも王の地位を羨(うらや)んでいた。それを見てある日王は「私の座に一日だけ座ってみるが良い」と勧め、ダモクレスは大喜びでその座に座る▼その時ディオニシウス王がダモクレスに「頭の上を見よ」と声をかける。ハッとして頭上を見上げると、天上から鋭い剣が、しかも一本の髪の毛で吊るしてあった。生きた心地もなく震えるダモクレスに、王は「それが俺の地位だ。王の身には絶えず危険が迫っている。あまり居心地が良いものではないぞ」と言った▼好調な支持率を得る安倍総理。沈没寸前だった日本経済を元気づけ、国民の心に明るさを与えている。矢継ぎ早に出される諸政策は、今までの内閣にないスピード感がある。しかし安倍総理は5年前に「潰瘍性大腸炎」で政権を手放した。健康上の心配は、現在も払拭されていない。しかも、国民の趨勢(すうせい)として、自らの努力より、アベノミクスの効果に頼ってしまう傾向にある▼次の総理の座を狙う身内≠フ影も見え、安倍内閣に何か失策があれば、野党からも身内からも総攻撃を受ける。政治は一寸先は闇。その座はすぐ崩れ去る。順風満帆の安倍政権だが、その頭上には細い糸で吊るされた剣が揺れている。安倍総理は緊張感をもって、総理を続けていられるのだろう。