デスク記事
部屋に入ると、テーブルの上には、数種類の果物が大きな皿に山盛りになっていた。「何がなくても果物があれば、私は満足なんです」と話していた。昨年4月、北見市のホテルでジャーナリスト・筑紫哲也氏にお会いした時のことだ▼その一ヶ月後、NEWS23の番組で「肺ガンにかかっていることが分かりました」と自らの癌を明らかにした。それから1年半の今月7日、東京都内の病院で死去した。ホテルでお会いした時は血色も良く「どうぞ」と、笑顔で果物をすすめてくれた。ついこの前のように思われる▼その際、言論について少し意見を交わした。筑紫氏は「言わなければならない事は勇気をもって発言しなければならない。重要な用件であればある程、何も言わなければ角が立たず、言えば波風が立つ。しかし、それを避けようとすれば、平穏だが進歩もない」と言っておられた▼静かな語り口調の中に、ジャーナリストとして自己の考え方を主張する鋭さと、爽快さが感じられた。さらに「地方には、そこに住む人でなければ分からない事が多いはず。中央ではなかなか理解されないけれど、それはある程度仕方のないこと。理解するだけの感覚が乏しいから理解できないのです。霞ヶ関のデスクに座っているだけでは、頭でっかちになってしまう」とも語っていた▼筑紫氏の言うように、今の日本では、諺(ことわざ)の通り「無言は金、有言は銀なり」の考え方がある。何か発言して、その人が批判されると「だから黙っていれば良かったのに」と、物知り顔に嘲笑する人が居る。筑紫哲也氏は、自由に物を言った人だったが、批判されることも多かった。しかし、人々に考える時間を提供したのも事実だ。それがジャーナリズムに携わる人の役目なのだろう。