←前へ ↑一覧へ 次へ→

デスク記事

2013/05/15

 12日付け日経新聞に「被災地の子供から日本のリーダーを」という記事が掲載されていた。兵庫県姫路市で学習塾を経営する西本さんという人が、東日本大震災で仮設住宅で生活している中学生に、無償で学習支援をしている。西本さんは言う。「本当の幸福の意味を知る被災地の子供の中からこそ、将来の日本のリーダーを」と▼私ごとで恐縮だが、一昨年の11月、それまで本紙に音楽について投稿してくれていた、ロサンゼルスに住むピアニスト・上野淳子さんの協力を得て、岩手県の大槌町でピアノ演奏会を開いた。仮設の校舎に美しいピアノ曲が流れた。目を閉じて聞き入る大槌中学校の生徒達。「海にも届いているだろうか」と涙を浮かべる生徒もいた▼津波で家族が流され家を失い、昨日まで一緒だった友も戻ってこない。仮設校舎の庭の花壇には「がんばれ大槌町」「私たちは負けない」「明日を見つめよう」など、手書きの短冊が飾られていた。教師は言う。「笑顔を浮かべているこの子達、でも背中には悲しさがあふれています」と▼演奏会が終わって生徒と話を交わした。そして、その瞳の深さに驚かされた。想像を絶する恐怖と悲しみを経験した彼らの目は、過去と現在と未来を、同時に見つめる真剣な輝きを持っていた。生きている自分たちの、これからの使命を見つめる鋭さがあった▼その時私は「これからの日本のリーダーは、この中から出てくる。いや、出てきてほしい」と思った。西本さんが言ったように、私も大槌中学校の生徒の中から、明日の日本を託す人材が輩出されると思った。