デスク記事
北朝鮮に拉致された多くの日本人の一日も早い帰国は、家族にとって一刻も待てない悲願であり、私たち日本人にとって最大の懸案である。今回の飯島官房室参与の訪朝は、その道を切り開く安倍首相の第一歩であろう。今後、次々と具体的な作業が行われることを期待したい▼10年程前、中国の大連市にプライベート旅行をした。大連と言う都市は、戦前、中国国内で生活していた日本人が、戦後輸送船で大挙して帰国してきた港湾都市である。しかし中国人の養子になったり、現地で結婚した女性など帰国できなかった残留孤児、残留婦人が多く残った▼大連で帰国を待った日本人の多くは、浪速通りという地区に住んでいた。食べ物がなく、ゴミ箱に半身を入れたまま息絶えた人も多かった。背後の山には、多くの日本人が無縁仏として埋められたという▼浪速通りに、一人のお年寄りのご婦人が佇(たたず)んでいた。日本人だった。私の問いかけに「懐かしい。本土からの方とお話しするのは、久しぶり」と言う。彼女は視力を失っていた。中国人と結婚し、幸せに暮らしているという▼天気の良い日は浪速通りに来て、日本の方角に向かって手を合わせるのだと言う。「もう、日本の土を踏めないでしょうが、こうしていると心が落ち着くの」と、静かに微笑んでくれた。やがて、女の子が迎えに来た。手を取り合って去って行く二人の後姿を見送った。北朝鮮に拉致された多くの日本人も同じように、東の方向を見ながら、いつになるか知れない、絶望的に長い帰国の日を待っているのだろうか。