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デスク記事

2013/06/02

 紋別公園の陽だまりに、10数人程のお年寄りの集団がおられた。あるグループホームの方達だと言う。引率する職員の方が「久しぶりの暖かさですから、みんなに太陽と一緒にいてもらいたくて」と話してくれた。28日は桜も満開。爽やかな風が新緑の香りを運んでいた▼車いすの方も多かった。展望台の下の、平らな所に車いすを安定させ、紋別のマチを眺め、オホーツク海を見回していた。みんなニコニコ顔。「久しぶりに、こんな高い所に来たよ。いいねえ、たまには」「暖かいねえ、楽しいねえ」と、短い言葉を交わし合う▼職員が、出来たての弁当を車で運んできた。一番楽しい時間だ。お年寄りの表情がさらに明るくなり、柔らかな会話が続いた。汗をかき、お世話に飛び回る職員は「喜んでくれるみんなの笑顔を見れば、私たちも嬉しい」と表情を輝かせる▼お弁当を楽しむお年寄り達は、ここに至る人生の中で色々な事に出会ってきただろう。喜びも、予期せぬ悲しみもたくさんあっただろう。みんな、それらを乗り越えて生きてきた。桜の香りを運ぶ優しい風が、お年寄りにはふさわしい▼│かすみたつ、長き春日を子供らと、手毬(てまり)つきつつ、けふ(きょう)もくらしつ│江戸後期の禅僧・良寛の句。老いても、童心にかえり、子供たちと手毬を楽しむ静穏な心境が伝わってくる。公園のお年寄りは、そんな遠い日を思い出しているのかもしれない。ひと時の貴重な時間をプレゼントする職員の心こそ尊い。支え合って成り立つ「人」という文字の意味を、深く感じた光景だった。