←前へ ↑一覧へ 次へ→

デスク記事

2013/06/06

 サッカーのワールドカップ(W杯)出場をかけた、日本−オーストラリア戦は、実に爽快な内容だった。印象的だったのは両チームのフェアープレイ。日本はこの試合でW杯出場を決めたく、オーストラリアはB組2位に残れるかどうかの剣ヶ峰。そんな重い試合が、あまり例を見ない程礼儀正しく行われた▼クロスプレイの時でも、互いの選手が手を差し伸べ肩を叩き合い、エキサイトした場面は見られず、審判員も笑顔の判定をしていた。また、6万人のサポーターの整然とした応援態度も、会場の雰囲気を盛り上げた▼勝っても負けてもいつも問題になるのは、会場の外でのサポーターの騒動。特に若者の常軌を逸したパフォーマンスは、交通障害を引き起こすなど周囲に大きな迷惑をかけてきた。しかしこの日は警察の指示に従い、共に日本チームのW杯出場決定を、落ち着いた表情で喜んだ▼呼びかける警官の言葉も洒落(しゃれ)ていた。「サポーターの皆さんは12番目の選手。ルールとマナーを守り、フェアプレイで今日の喜びを…」。繁華街の路上に笑顔が広がり、柔らかな空気が満ちていた▼ただ単に勝利に突っ走るのではなく、サッカーという世界規模のスポーツに、選手として出場できる意味、そしてそれを楽しむサポーター。この日の試合には、そんな成熟した空気が流れていた▼今の時代、特に若者にとっては将来の見えない焦燥感あふれるもの。ハイタッチで他人との手の平の瞬間の触れあいを、明日のエネルギーにする人もいるだろう。歓喜と寂しさとが同居しているようにも見えた。