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デスク記事

2013/06/26

 金子みすずの詩「星とタンポポ」は「昼のお星は目に見えぬ、見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ」│と表現している。見えないものに大切な意味が隠されているという感覚は、日本人の精神文化の軸と言えよう▼正月に行われるカルタ・百人一首で「乙女の姿…」は僧正遍正の作。誰もがこれだけは≠ニ熱くなる札だろう。天女の羽衣伝説の舞台は静岡県「三保松原」。その三保松原が富士山と一体として、ユネスコの世界文化遺産に決まった▼ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議」は事前審査で三保松原は富士山と45キロ離れている≠ニ、除外勧告を出した。しかしカンボジアのプノンペンで開かれた「世界遺産委員会」は、この除外勧告を覆(くつがえ)し、逆転での決定を下した▼「距離が離れていても、三保松原は富士山と一体である」│という説明を、文化庁の近藤長官らは4日前からプノンペン入りし、委員に粘り強く説明。その結果ほとんどの委員が理解を示し、勧告に反対する意見を述べたという。吉報を待っていた静岡県など地元の人たちは「言葉でうまく説明できない日本人の感覚を理解して貰えた」と喜んだ。説明者の努力を讃え、勧告を退けた委員会こそ見事である▼45キロの距離、その空間があればこそ富士山と一体なのだという、距離の持つ意味を良くぞ理解してくれた。そんな感動を覚える。画家・ゴッホは、葛飾北斎の「富嶽百景」の遠近法に学んだという。富嶽とは富士山のこと。世界の芸術に影響を与えた富士山の、世界遺産決定を素直に喜びたい。