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デスク記事

2013/07/13

 部下からも、専門家からも絶大な信頼を受けていた東京電力福島第一原発の吉田元所長が9日、食道ガンで死去した。東日本大震災で事故対応の陣頭指揮をとり、東電本社の指示に背き、原子炉を冷却する海水の注入を続けた。現場の判断を決行し、事故の更なる悪化を防いだ▼当時原子力安全委員会の斑目(まだらめ)委員長は「吉田氏の冷静な判断がなければ、もっと最悪の事態になっていた」と高く評価。現場の部下も「吉田所長だから、放射能の中にも入って行けた」と、吉田氏への信頼を語る。日本が地獄に落ちる寸前で、それを防いだ人物と言える▼東京電力の廣瀬社長も9日、訃報に接し「文字通り決死の覚悟で事故対応にあたっていただきました。私ども社員一同は、吉田さんの思いを胸に、吉田さんが命を賭して守った福島の復興に向けて全力で取り組んでまいります」などのコメントを発表した。しかし現場の状況は厳しさを増すばかりだ▼9日以降、原子炉建屋の海側の地下水から、それまでの濃度を遥かに超す放射能セシウムが検出されている。海水への流出が心配されているが、東電は「付近の土が混入したもの」などと言う。新潟の柏崎刈羽原発の再稼働についても、地元へ説明する前に勝手に決めた。泉田知事をはじめ、地元民が怒るのも当然である▼東電の自己本位な、上から目線の体質が、重大な局面で混乱を招いている。全てを安易に考え過ぎ、最大限懸念すべき事柄を、東電に都合の良いように持って行こうとしている。それが国民からの信頼を失っている。今後についても東電を厳しく注視する必要がある。